2014年1月11日土曜日

レトロなダウンタウンが徐々に発展中


マイアミのダウンタウンには、高層住宅が建ち並ぶ国道1号線沿いのモダンな部分と、1920年代に建造されたビルが多く残るレトロな部分があります。どうも最近、レトロな地域が活性化しつつあるように見えます。
2014年1月 追記:ダウンタウンの再開発についてタイムリーな動画がありましたので、一番下に追加しました。


ダウンタウンのレトロなエリア

海側から眺めると高層住宅の影に隠れてしまっていますが、US1(国道1号線)からFlagler Streetを西側に折れれば、昔の面影が残るダウンタウンです。しかしホームレスが多く、治安が良さそうには見えません。ここはあまり顧みられていないのでは?というのがこれまでの私の印象でした。

さほど広くないエリアですが、物騒に思われるストリートもあり、夜間人口が極端に少なく、また旅行者を惹き付けるようなお店が少ない、なんとなく昭和(?)の香り漂う商店街の雰囲気です。観察した限りでは、ダウンタウンに多いビジネスは宝石店、電気店、生地や手芸パーツの卸売店、それに銀行です。
昔なからの生地店。1980年代のようなウィンドウディスプレイ。
しかし良いレストランがちらほらあり、2013年は中心部にカフェが増え(※)、さらに、洗練されたギャラリーもできました。またマイアミ・ビーチで展開している貸し自転車「Deco Bike」が2014年第2四半期にダウンタウンでサービスを開始する予定です。
※=口コミサイト「Yelp」にて、ダウンタウンのFlagler Street付近のカフェを検索、最初のレビュー書き込みの日付を確認したところ、人気上位10件のうち5件が2013年でした(スタバは除外)。
増えつつあるカフェ(The Newsstand by Books & Books)
The Newsstand by Books & Books
200 South Biscayne Blvd
(Southeast Financial Centerビルの敷地内)


歩行者に優しい街に?車には毎日乗らないのが現代的?

ダウンタウンには数年以内にオーランド行き高速鉄道の駅が建設される予定で、今後再開発が進んでいくのではと思われます(詳しくは「マイアミ ー オーランド間 高速鉄道計画、2013年内に着工」をご参照ください)。また中心部に高層住宅「Centro」、元銀行のレトロビルを改装したホテル「Langford」も計画されています。これらが完成すれば夜間人口増加が期待できますね。
改装工事中のLangford Hotel(2014年1月撮影)

Langford Building
所在地:121 SE 1st Street
設計:Hampton and Ehmann
竣工:1925年
Langford Hotel

さらに、マイアミ・ヘラルド紙の記事によれば、マイアミ市がダウンタウンの一部に歩行者優先地区を設けることを検討中だとのこと。同地区内では歩道拡張、植樹、障害物撤去、車のスピード制限、赤信号での右折禁止(←米国ではOK)が実施されるものとみられます。DecoBikeが進出するので、ついでに自転車レーンが整備されるといいですね。

Miami wants pedestrian-friendly downtown (Miami Heraled、2013年12月8日)


前述の高層住宅「Centro」は車社会のマイアミでは珍しい「バレー・パーキングあり、シェアカーのハブあり、駐輪場あり。セルフ・パーキング無し」という物件です。バレー・パーキング(valet parking)とは、駐車係に車のキーを預けて車の出し入れをしてもらうシステムで、レストランなどで一般的なやり方。

バレー・パーキングは出庫の際にチップが必要ですし、時間をとられるので、住宅には自分で出し入れするセルフ・パーキングがあるのが普通ですが、これを設置しないという斬新な方針がメディアの注目を集めています。車を毎日必要としない都会生活者向け、ということのようです。また開発業者は駐車スペースを減らすことで建設費を抑えられ、販売価格を安く設定できます。まだ更地なのに、すでに半数のユニットが売れているそうです。

No parking? No problem for planned downtown Miami loft condo (Miami Herald、2013年7月14日)


レトロな魅力のあるスポット

さてそんな発展途上というか復興中のダウンタウンで、レトロな魅力のあるスポットに行ってみました。ダウンタウンには1920年代竣工の、古典様式(ボザール様式と呼ぶようです)のビルが多くあります。ほんの10年ほどしか違わないのに、1930年代の建築が多数を占めるマイアミ・ビーチのアール・デコ地区とは、趣が異なります。竣工年順に並べました。

Old U.S. Post Office and Courthouse
所在地:100 NE 1st Avenue
設計:Oscar Wenderoth
竣工:1912年
Miami Center for Architecture and Design (MCAD)
 Old US Post Office & Courthouse

Miami Center for Architecture and Designギャラリー
築100年以上の元郵便局が改装され、2013年末にAIA(アメリカ建築家協会)マイアミ支部としてオープン。随所に郵便局のシンボル、鷲の装飾が見られます。ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューによれば、改装予算に限りがあり、設計は支部長のボランティア、設備や家具は寄付されたものがほとんどだそう。ギャラリー「Miami Center for Architecture and Design 」が併設され、2014年1月から一般公開しています。第一回の展覧会は「Drawn Miami」(〜2014年2月9日)。建築家による、マイアミに建てることを前提とした建築プランの手描きスケッチです。次回は歴史的建造物に関する展覧会を予定しているとのこと。
エレベーター扉に鷲のエンブレム。郵便局時代の名残り
Embracing Miami's Past and Future (New York Times、2013年12月11日)


Flagler First Condominium (First National Bank)
所在地:101 East Flagler Street
設計:Mowbray and Uffinger 
竣工:1922年(住宅への改築:Roberto M. Martinez Architects、2005年)
Flagler First Condos

Flagler First Condominium
Flagler First Condominiumは元銀行の建物を住宅に改装したものです。公式サイトを見ると、銀行時代の大金庫が残っているようです。オリジナルとはかなり変わってしまっていた外観を、改装時に復元。1階はサブウェイなどの商業施設。


Shoreland Arcade
所在地:120 NE 1st Street
設計:Pfeiffer and O'Reilly
竣工:1925年
Soya e Pomodoro
Shoreland Arcade
このような低層のアーケードがちらほら見受けられるのですが、第二期工事で上階を増築する予定がありながら実現しなかった、というパターンが多いようです。1920年代には工期を分けて建設するのは一般的だったそうです。アーケードのメインエントランス&エレベーターホールだったとおぼしき部分に、口コミサイトで人気のイタリアン「Soya e Pomodoro」があります。ボリュームが多いのですが(このボリュームのパスタのあとに主菜を頼む人いるの?)、美味ですしわりにリーズナブル。かわいらしい飾り付けでカジュアルな内装ですが、お客さんはきっちりした服装の人が多かった。
Shoreland Arcade エントランス、レストランSoya e Pomodoro

レストランSoya e Pomodoro


Olympia Theater at Gusman Center
所在地:174 East Flagler Street
設計:John Eberson
竣工:1926年

Olympia Theater at Gusman Center
前述「Centro」の建設予定地はコンサートなどの会場になる「Olympia Theater at Gusman Center」の裏手。このシアター、以前はエントランスが観光案内所になっており、中の装飾の一部を見ることができました。が、残念ながら案内所は移転するとのことで閉鎖。催し物があるときのみ入場できるようです。客席やステージの装飾は、外からは想像もつかない、野外劇場のようなたいへん凝ったものそうです(未見)。
Olympia Theater at Gusman Centerエントランスの天井装飾


Ingraham Building
所在地:25 SE 2nd Avenue
設計:Schultze and Weaver
竣工:1926年
Ristorante Fratelli Milano
Ingraham Building
オフィスビルのIngraham Buidingがある一角は、石の壁、街路樹、路上駐車の列などによりちょっとヨーロッパのような雰囲気です。1階に飲食店などがあり、こちらにも口コミサイトで人気の美味しいイタリアン「Fratelli Milano」があります。レストランもヨーロッパっぽい。双子のイタリア人シェフが経営しており、デザートにも力を入れていたと記憶しています。
レストランFratelli Milano


Capital Lofts at the Security Building
所在地:117 NE 1st Avenue
設計:Robert Greenfield
竣工:1926年
CU-1 Gallery
Capital Lofts at Security Building
元郵便局のアメリカ建築家協会のはす向かい。AIAのギャラリーより一足早く、2013年6月に1階に大きな「CU-1 Gallery」がオープンしました。このような現代的なギャラリーはこれまでダウンタウンに無かったのでは?と思われます。主に写真作品を扱っているようです。細長いビルなので一見狭そうですが、ギャラリー内は巨大な空間。銀行時代の金庫室が残っており、展示室として使われています。上階はオフィスおよび住宅。ビル最上階には唐突にフランス風のマンサード屋根が乗っかっていて、周囲の景観からやや浮いています。
CU-1 Gallery「EYE to EYE」展フライヤー(2月14日まで開催)


La Epoca
所在地:200 East Flagler Street
設計:Zimmerman, Saxe and McBride
竣工:1936年
La Epoca
La Epoca
デパート「La Epoca」のビルはアール・デコ様式。ここまでご紹介したビルより、10年ほどあとに建ったビルです。元はドラッグストア・チェーンのWalgreensの店舗で、20世紀半ばに現在の衣料品デパートになりました。看板に「ハバナ マイアミ」と記されているとおり、昔はハバナで商売をしていました。が、キューバ革命勃発後は彼の地での営業が禁じられ、マイアミに移ってきたそうです。20世紀の歴史が垣間見えるエピソードですね。外見は地味ですが、内部は吹き抜けのきれいな空間で、ファッショナブルなスポーツウェアを多く扱っています。
La Epoca


ダウンタウンのFlagler Street周辺にはこのほかにも古い建築がまだまだあり、今後の再開発では古さを活かしつつ発展していくと素敵だなと思います。ただ、街が洗練され、お金のある層が集まってくるようになると家賃が高騰し、個性的なお店やギャラリーは別の場所に移って行く…というのがジェントリフィケーションの常。マイアミの場合はどうなることでしょうか?
現在はこのように無造作に使われているレトロビルが多い

なおダウンタウンを訪れる時間帯は、平日の日中が活気があって良いと思います。周辺で働いている人が、ランチに行ったりしますし、お店も開いていますので。ストリートによってはやや物騒な雰囲気が漂っているところもあるので注意は怠らず。早朝と夜間は人が少なく、安全ではないと思います。週末もあまり賑やかではないと思われます。レストランは営業していますが、小さな小売店や卸売店は閉まっています。


より大きな地図で Retro Downtown を表示



(2014年1月追記)
動画:テレンス・ライリーが語るダウンタウン・マイアミの再開発

Movie: Terrence Riley on redevelopment of downtown Miami
(dezeen、2014年1月11日)
http://www.dezeen.com/2014/01/11/terrence-riley-downtown-miami-outdoor-living-pedestrian-city/



テレンス・ライリー氏は建築家で、ニューヨーク近代美術館のキュレーターも務めた人です。2013年12月に開館したペレス・アート・ミュージアム・マイアミの館長をしていたことがあります(開館前に辞任)。

(大意)
「19世紀末から20世紀初頭にかけて商業の拠点だったダウンタウンは、1970年代に川の対岸が開発されるようになり、空洞化。しかし現在、長年空家だった元郵便局がAIA支部になるなど、中心部の再開発が始まっている。

マイアミはもともと歩行者の街。ダウンタウンで見かけるアーケードは人々を雨と日差しから守るため。のちに人々は一年中空調のきいた室内にいるようになったが、今は人々の姿勢が変わってきていると思う。アウトドアのカフェ、自転車などから見てとれる。ダウンタウンに住むことができるし、買物ができ、レストランもある。まったく新しいことだ。


ペレス・アート・ミュージアム・マイアミには大きな庇があり、人々に外に出たいと思わせ、楽しませる。伝統的な都市で行われてきた、思慮深く知的な営みを思い起こさせる。マイアミは原点に戻りつつあるのではないか。」



関連エントリー:
ダウンタウンにベッカムのサッカースタジアムができる?
※デイビッド・ベッカム、新サッカーチームのスタジアムをダウンタウンに建設希望


※テレンス・ライリー氏が関わったコンペについて

※動画に紹介されている美術館について

マイアミ ー オーランド間 高速鉄道計画、2013年内に着工
ダウンタウンに高速鉄道の駅が新設される件

ヒート本拠地、マイアミ
※ダウンタウンの別のエリアについて少し書いております

参考文献:
Miami Architecture An AIA Guide Featuring Downtown, the Beaches, and Coconut Grove
(Shulman / Robinson / Donnelly, University Press of Florida, 2010)
※著者のひとりAllan T. Shulman氏はAIAのマイアミ支部長で、前掲のニューヨーク・タイムズ記事でインタビューに答えている方です。

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