2014年3月28日金曜日

マイアミにはロシア人(ロシア語話者)もたくさんいる


2014年2月、ロシア・ウクライナ間の緊張が高まり、3月下旬の現在でも不安定な状態が続いています。そんななか、マイアミ出身の共和党議員マルコ・ルビオ氏が「
ロシアを罰するためにオバマがとるべき8つのステップ」をPolitico.comに寄稿しました。


マイアミ出身上院議員が、富裕ロシア人の渡航制限を提案

ルビオ議員は「ロシアによる違法なウクライナのクリミア地方への進出は、国家の主権に対する重大な侵害であり、罰せられずにすむものではない」とし、1.オバマ大統領はこれが軍隊による侵略だと明言すべきだ、2.ウクライナ暫定政権を支援すべきだ、3.ソチ・サミットをボイコットすべきだ…などと提案しています。

※マルコ・ルビオ:
1971年マイアミ生まれ。両親がキューバからの移民。フロリダ州選出上院議員 (2010年〜)。保守派のティーパティーが支援。

そして、第七の提案では(唐突に)地元マイアミに関わる話をしています。
「第七、オバマ政権は即刻、より多くのロシア政権関係者を、渡航禁止やその他の制裁を加えるマグニツキー・リスト(重大な人権侵害に関与したロシア当局者の入国を禁じる法)に加えるべきだ。オバマ大統領が12月に実行できなかったことだ。マイアミの住人として、私は近年、大勢のロシア人観光客が私たちの街や州にやってきて、金を使い、不動産を買うのを目にしている。彼らの多くはロシア政府当局者やその仲間であり、その富の源泉はプーチンへの忠誠に起因する。我々は彼らの入国を限定すべきだ。」

8 Steps Obama Must Take to Punish Russia (Politico.com、2014年3月1日)

不買運動ならまだ分かりますが、富裕なロシア政権関係者の入国を禁止することに効果はあるのでしょうか…。アメリカがダメなら他国でお金を使いそうです。それにマイアミの場合、ラテンアメリカの地下マネーで潤った富豪もたくさんいそうなものなのに、そちらは良いんでしょうか。あるいはロシアマネーの台頭に危機感をおぼえたラテンアメリカ系住人がいて議員に陳情でもしてるのか、と勘繰りたくなります(けれど不動産業界のラテンアメリカ人は儲かっているはず)。

それはともかく、ルビオ議員が言うように、マイアミには大勢のロシア人がいるようです。彼が言及している富裕な観光客だけでなく、住人として大きなコミュニティを形成しているとのことです。残念ながら筆者はコミュニティのあるエリアを詳しく探検したことがなく、かつロシア系住人に関するメディアの記事は少なく、統計も見当たらなかったので、本エントリーはかなり大雑把な内容であることをご了承ください。


ロシア語話者のコミュニティ

さて、マイアミでロシア人がおおぜい暮らす地域は、観光地マイアミ・ビーチの北方、コリンズ・アベニュー(Collins Avenue) でつながっているサニー・アイルズ(Sunny Isles)から、その北のハランデール・ビーチ(Hallandale Beach)に至るエリアのようです。2013年の記事ですがMiami Herald紙にこのエリアについて扱ったものがあります。見出しは「魅力いっぱいの南フロリダのリトル・モスクワ」といったところでしょうか。

South Florida’s Little Moscow has lots to offer (Miami Herald、2013年1月3日)

サニー・アイルズ地区
記事の要旨は次のようなものです。

・サニー・アイルズからハランデール・ビーチにかけて、食材店、バー、バレエ教室など、ロシア語を話すオーナーのビジネスがたくさんある。

・同地区には多くの旧ソ連圏出身者が暮らしている。出身国はロシアだけでなくウクライナ、ベラルーシ、リトアニア、ユダヤ系など20ヶ国以上にのぼり、共通言語はロシア語。家庭では子供が英語とともにロシア語も話せるようにと教育する人が多い。

・移民の第一波は1970〜80年代のソ連時代。おもに政治的、社会的理由による。南フロリダに移住した人はユダヤ系ソ連人が多かった。第二波は1991年のソ連崩壊以降。おもに経済的理由から。

「ロシア人」「ロシア系」となんとなく一括りにしてしまっている住民は、実際には「ロシア語話者」であって、出身地や民族はさまざまだということですね。また移民の第一波ではユダヤ系が多かったとのことですが、マイアミには古くからリトアニア系ユダヤ人が移住していたので、言葉が通じて受け入れられやすいコミュニティがあったのかもしれません(ユダヤ系移民については「もうすぐハヌカのお祭り。マイアミのユダヤ文化」をご参照ください)。
口コミサイト「Yelp」より。サニー・アイルズ地区にロシア料理のお店や食材店が集中

アメリカの口コミサイト「Yelp」で地域をマイアミに限定し「Russian food」を検索すると、サニー・アイルズ周辺にレストランやデリが集中していることが分かります。評価の高い「New York Deli」というお店はオーナーがウズベキスタン人で、ロシア料理とウズベキスタン料理を供するそうです(店名がわかりにくすぎ!)。

ちょっと話が逸れますが、サニー・アイルズ地区より南、マイアミ市に「Marky’s」というロシア食材店があります。外見はやけにひっそりしており、中は広くてヨーロッパふうの綺麗なお店です。イクラを置いているのが日本人には嬉しいところ。お店にはロシア語のフリーペーパーを置いており、ロシア人のコミュニティがあるんだなあと感じさせます。ちなみに「イクラ」は日本語ではなくロシア語であり、魚卵一般を指すそうで、キャビアのことも「イクラ (ikra)」と呼ぶようです。
ロシア食材店「Marky's」外観。どうしてこんなに地味なのか…
ロシア食材店「Marky's」内部


Marky’s
687 NE 79th Street, Miami, FL33138
※周囲は荒んでいるので車で行くべきかと思います

マイアミで撮影されたドラマ「バーン・ノーティス 元スパイの逆襲」にもマイアミ在住のロシア人が登場します。シーズン2の第4話「Comrade」では、主人公の依頼人はカーチャという、ロシア人移民。カーチャの妹もアメリカに来たがっていたけれど、人身売買を生業とするロシアン・マフィアに騙され、カーチャは身代金をせびられる日々。マイアミのどこかに監禁されている妹の救出を主人公に頼むというストーリーです。主人公が借りている住居の大家もまたロシア人という設定でした。

バーン・ノーティス シーズン2予告編
(YouTubeのFoxTVdramaチャンネルより)
http://youtu.be/7oBtkhKXkQ0


筆者が知らないだけかもしれませんが、ロシア語話者コミュニテイは、毎月イベントをおこなうリトル・ハバナのラテンアメリカ系コミュティや、博物館があるユダヤ系コミュニティ等に比べて、積極的に外部への発信をしていないように見えます(ロシア語で発信しているのかも)。ですが2013年には第一回美人コンテスト「Miss Russian Miami」を一般公開イベントとして開催したそうで、フェイスブック等で英語で宣伝しています。

Miss Russian Miami


ロシア人大富豪

さて、ルビオ議員の言うところのマイアミでお金を使いまくっているロシア人富豪は、移民第二波よりしばらくあと、21世紀になってから台頭してきたようです。ちょっと古いのですが2011年のブルームバーグの記事があります。

「マイアミに豪邸」ー米住宅不況はロシア富豪たちのステータスを応援
(ブルームバーグ、2011年8月3日)

『ワン・サザビーズ・インターナショナル・レアルティ(フロリダ州コーラルゲーブルズ)の不動産エージェント、ジョージ・ウリベ氏は「ロシアでは目下これがステータスだ」と語る。同氏は電話インタビューで、「富豪が自分はマイアミに不動産を所有していると話すのは、一昔前ならイビザやモナコに不動産を持っていると言っていた感覚だ。カクテルパーティーのしゃれた話題になる」と説明した。』 ---ブルームバーグ

どうしてマイアミがモナコに並ぶ価値があるのか、そのへんはよく分かりません。イビサ島がそこまでステータスが高かったとは知りませんでしたが、セレブリティが家を持っている、ビーチサイド、パーティタウンであるなどの共通点がマイアミにあるといえるかも。ブルームバーグの記事ではスター・アイランド (Star Island) の屋敷を購入したロシア人富豪が二人いたとのこと。
スター・アイランド
スター・アイランドはグロリア・エステファンら著名人の別荘がある島で、買われたうちの一軒はもとはバスケットボール選手シャキール・オニールの別荘だったそうです。CNBC、Ocean Drive Magazineなど別の記事の内容を総合すると、大金持ちのロシア人が選ぶのはスター・アイランド、インディアン・クリーク (Indian Creek)、フィッシャー島 (Fisher Island)、バル・ハーバー (Bal Harbour) などの超高級住宅地・別荘地にある物件だとのこと。また彼らはセキュリティにたいへん気を遣うのだそうです。

こうしたロシア人富豪と不動産にまつわる話の中でずば抜けてスケールが大きいのがフィシャー島を巡る攻防です。フィッシャー島は、景気後退前にはフォーブスが「全米でもっとも地価が高い場所」と評したそうで、マイアミ・ビーチとは目と鼻の先ですが橋がなく、住民および招待者はフェリーかヘリコプターで上陸。オプラ・ウィンフリーやジュリア・ロバーツが休暇を過ごす島とのことです。フィッシャー島の名は20世紀初頭の所有者カール・フィッシャーから。 (カール・フィッシャーについては「ディベロッパーが作った街、マイアミ・ビーチ 」をご参照ください。)

フィッシャー島の所有を巡る争いについては、マイアミのフリーペーパー「Miami New Times」が2011年に詳しくレポートしています。

Russian billionaires battle for Fisher Island (Miami New Times、2011年11月17日)

フィッシャー島(写真奥)
長いしややこしいので、非常に大雑把にまとめますと:

2004年〜2005年にかけて1億600万ドルでフィッシャー島のオーナーになったのは通称バドリという旧ソ連出身のグルジア人。グルジア大統領選でサーカシビリの対立候補になったこともある。3年後の2008年、バドリは52歳の若さで急死。残された資産は120億ドル。

そこにバドリのかつての盟友、のちに決別したボリス・ベレゾフスキー登場。(※ベレゾフスキーはプーチン大統領と敵対してイギリスに亡命したオリガルヒ(新興財閥)。ロシア共和国のメディア、石油、銀行などを握っていた。)バドリの死の翌日に、不仲だった妻が、ベレゾフスキーに島の半分を渡すことに合意していたらしい。

ベレゾフスキーはバドリの顧問弁護士エマヌエル・ゼルツァーをロンドンでの会食に誘い、自分の権利を主張。会食後、ゼルツァー弁護士は意識が朦朧とし、気がついたらプライベートジェットでベラルーシに拉致され、監禁・拷問されること16ヶ月。同じ頃、島を管理していたバドリの親戚は島から締め出され、ニューヨークに所有していたレストラン「Anja Bar」も何者かに乗っ取られる。

2009年、米国議員団がベラルーシを訪問、ゼルツァーは解放される。米国に戻ったゼルツァーはフィッシャー島やAnja Barなど乗っ取られた物件を奪い返すため、NYの最高裁判所に訴え出るなど動く。2011年、フィッシャー島とAjna Barの債権者が3200万ドルの債権回収のため、破産したFisher Island Investmentsを訴える。(※訴えられた会社とFisher Island Holdings との関係など、記事を読んでも理解不能でした。すみません) 

(要約終わり)

急死やら拉致やら、サスペンス映画のようなストーリーです。それにしてもベレゾフスキーがフィッシャー島に絡んでいたとは、驚きます。彼はユダヤ系で、急死したバドリはグルジア出身と、ここでも一言に「ロシア人」と言ってもバックグラウンドはさまざまなんだな、と思わされます(ちなみにゼルツァー弁護士もユダヤ系で、シベリア強制収容所で生まれたのだそうです)。

ゼルツァー弁護士は「自分もバドリもベレゾフスキーに毒を盛られた」と考えているとのこと。そのベレゾフスキーも2013年3月、ロンドンの自宅での不審死(自殺?)が報じられ…。結局いまフィッシャー島の所有権はどうなっているのか、は分からなかったのですが、現在でも保養地・住宅地として島は存在しています。セレブたちがのんびり泳いだりゴルフをしたりして過ごす南国の島の裏側に、すさまじいドラマがあったものですね。


関連エントリー:
※サニー・アイルズでは豪華高層コンドミニアムが着々と建設されています。こういう物件は、お金持ちのロシア人が買うのかも?

関連ドラマ:
「バーン・ノーティス 元スパイの逆襲」(2007年〜2013年)
マイアミで撮影されたドラマシリーズ。マイアミを訪れる前に、あるいはいらした後に見ると楽しさ倍増だと思います。軽妙でとても面白いドラマです(ルパン三世に近いノリ?)。シーズン2までしか見ていないのですが、アフリカ系アメリカ人やハイチ人がほとんど登場しない点に、やや不自然さを感じつつ、まあでもたしかにマイアミでは、異人種同士が一緒にいる場面をあまり見かけない気がします…。

シーズン7で完結。なぜ完結したのかといえば、ココナッツ・グローブ地区の撮影拠点の賃貸契約延長を貸し主の自治体が断り、撮影が続行できなくなったから。


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