2013年5月13日月曜日

アール・デコのレリーフ


アール・デコ建築に特徴的な装飾のひとつ、レリーフ(浮き彫り)の写真をいくつか集めました。すべてマイアミ・ビーチ市内の建物です。レリーフがオリジナルの状態で残っているとは考えにくいですが、建物は1920年代後半〜1940年代前半のものです。日本でいえば東京の朝香宮邸、日本橋三越、銀座ライオン、大阪の大丸百貨店心斎橋店、大阪証券取引所などが、この時期(昭和初期〜10年代)にアール・デコ様式で建てられています。

Cameo & Osteria del Teatro (旧Cameo Theater)
Robert E. Collins (1938年)
中央に女性の横顔(カメオ)が彫られています。もとは劇場、現在はナイトクラブCameoとイタリアンレストランOsteria del Teatroが入っています。





Mi Ami Italian Cafe
詳細不明。イタリアンレストランが入っています。拡大写真には映っていませんが、下部にもペリカン、フラミンゴなど南国らしい鳥が彫られています。





GUESS (Cadillac and Quittner Buildings)
Carlos Schoeppl (1929年)
元はキャデラックの所有だったのでしょうか。飛行機、稲妻、車などが彫られており、車は1920年代のキャデラックとのことです。現在はアパレルのGUESSが入っています。



Cadet Hotel
設計者不明(1941年)
竣工後しばらくは空軍士官候補生の宿泊所だったようです。当時の空軍指揮官、俳優のクラーク・ゲーブルにちなんで、その名を冠したスイートルームがあるとのこと(本人が宿泊したかどうかは不明)。渦巻き状の植物模様、噴水のようなデザインはよく見るモチーフです。



Royal Polo Hotel (旧称Embassy Hotel?)
設計者不明(1935年?)
詳細不明。改修中。ホテルとして売り出し中(2013年5月現在)。花のレリーフには、彫り直しているのか、あるいは後世の修復部分をはがしているのか、ラフな描線と繊細な描線の両方が見られました。



Helen Mar 
Robert E. Collins (1936年)
コンドミニアム(住宅)。現在でもホテルなどに転用せず人が住んでいる様子です。拡大写真の部分はペントハウスだそうです。レリーフのモチーフは波と、椰子の葉のような渦巻き植物の組み合わせ。色使いが独特。Cameo Theaterと同じ設計者です。




Banana Republic (旧Chase Federal Bank)
August Geiger (1937年)
元は銀行だった、かつ名前にfederal(連邦)と付いているせいか、厳めしい鷲モチーフのレリーフ。この建物は内部も昔の雰囲気が残っています。現在はアパレルのバナナリパブリック店舗。



Aviator(旧Lindbergh Hotel)
T. Hunter Henderson (1930年、1936年)
元はホテル、現在はレリーフのある1階部分にレンタカー店や弁護士事務所などのオフィスがあります。こちらも色使いが独特、先住民の工芸品のようにも見えます。軒下の持ち送りがライトふう。



2615 Collins Avenue近辺
詳細不明。集合住宅。アール・デコの特徴である、放射状の太陽光線と渦巻き状の植物が彫られています。太陽が半分に割ったオレンジのよう。



H&M (旧Lincoln Theatre)
Robert E. Collins、Thomas White Lamb (1936年)
映画館→音楽ホール→現在はアパレルのH&M、時計のSwatch、バスグッズのSavonの店舗。こちらもCameo Theater、Helen Mar設計者が関わっています(劇場建築で知られる人のようです)。大きなレリーフのパネルがいくつもあり、モチーフはHelen Marと同じく波と渦巻き植物。2012年に現在の姿になりましたが、以前はパネルに彩色されていました(一番下の写真)。





The Webster Miami (旧 Webster Hotel)
Henry Hohauser (1939年)
設計者Henry Hohauserはマイアミ・ビーチのアール・デコ様式のプチホテルを多く手掛けたようです。現在はハイエンドなセレクトショップ(専任の駐車係がいます。小売店では珍しい)。ファサード中央を囲む帯状のレリーフが、渦巻き模様と幾何学模様を組み合わせた凝ったデザインです。



Jewish Museum of Florida (旧礼拝所
Henry Hohauser (1936年)
元はユダヤ教の礼拝所、現在はマイアミに移住したユダヤ人の歴史をたどる博物館。服装などが質素なユダヤ教徒ですが、礼拝所には明るい色のレリーフ。渦巻き植物ふうのモチーフの上に、ダビデの星が彫られています。設計者はThe Websterと同じ人。




Albion Hotel
Igor Polevitzky、T. Trip Russell (1939年)
ホテルと小売店の複合施設。レリーフはパターンではなく神話の人物像(ネプチューン)です。このような具象的な図像はマイアミビーチのアール・デコでは少ないように思います。

<参考>下の写真はニューヨークのビルのアール・デコ装飾。ニューヨークには金属レリーフが多くありますが、マイアミ・ビーチはストゥッコ(漆喰)製が多い。耐久性が低いものの、コストが安く、海風にさらされても錆びにくいということかもしれません。Albion Hotelのネプチューン像も、金属ふうに見せかけたストゥッコだと思います。

関連エントリ:
「アール・デコのインテリア」
「アール・デコ建築」

参考文献:

Miami Architecture An AIA Guide Featuring Downtown, the Beaches, and Coconut Grove 
(Shulman / Robinson / Donnelly, University Press of Florida, 2010)
「建築マップ○○」シリーズ(ギャラリー間 刊)のような本です。歴史的建築から現代の建築まで。とはいえ歴史が浅いので歴史的建築はほとんど20世紀建築。また、現在どんどん新しいビルを作っているので、最新情報は反映しきれていないと思います。図版は少ない(しかもカラーは無し)のですが、解説が充実。

「図説 アール・デコ建築 グローバル・モダンの力と誇り」
(吉田鋼市、河出書房新社、2010年)
まだ読み切っていませんが、世界中のアール・デコ建築の写真が豊富。貴重な一冊なのでは。解説も充実。マイアミのアール・デコと保存運動についても取り上げられています。


この記事内で取り上げた商業施設などのリンク:

Cameo 
Osteria del Teatro 
Mi Ami Italian Cafe (いきなり音が出るので注意)
Cadet Hotel
Royal Polo Hotel に関する記事(Miami Herald 2013年5月3日)
The Webster Miami
Jewish Museum of Florida
Albion Hotel

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