2013年9月27日金曜日

アール・デコのインテリア



マイアミ・ビーチのアール・デコ建築群には、外観のみならず、インテリアにも往時の痕跡が残っているものがあります。幾何学的デザイン、流線型デザイン、金属素材や大理石の多用、などが特徴でしょうか。大理石はコストが高いので、石とセメントを混ぜて大理石風のテクスチャを作る「テラゾ(terrazzo)」という手法も、しばしば見られます。住宅にはもちろん入れませんが、ホテルのロビーやお店など入りやすい場所で見つけたアール・デコ様式の内装をご紹介します。

The Essex House Hotel
Henry Hohauser (1938年)
1001 Collins Avenue, Miami Beach, FL33139
The Essex House 外観
The Essex House ロビー
アール・デコ・ウォーキング・ツアーでロビーを見せてもらいました。ロビーの壁画、暖炉、床の装飾、ドアのガラスパネルなど、内部がよく保存・修復されているとのこと。


Hotel Victor
Lawrence Murray Dixon(1937年)
1144 Ocean Drive, Miami Beach, FL33139
Hotel Victor外観
外観はモダンでアール・デコ時代のものとは思えないホテル。内部は海をテーマにしたインテリアで、くらげ型の照明などが残っています。1980年代と2003年の改装で、失われたオリジナルの装飾も多いようです。アール・デコ・ウォーキング・ツアーで見学。
Hotel Victorロビー照明
Hotel Victorロビー。家具がアール・デコ。床はテラゾ装飾
Hotel Victorロビー奥、くらげ型照明

National Hotel
Roy France (1940年)
1677 Collins Avenue, Miami Beach, FL33139
National Hotel外観
ロビーの家具や飾りを落ち着いたアール・デコ様式で統一。ロビーそのものにも、オリジナルか復元か判別できませんが、エレベータや手すりなどにアール・デコらしさを見てとれます。
National Hotelロビー
National Hotel ロビー

The Raleigh Hotel
Lawrence Murray Dixon(1940年)
1775 Collins Avenue, Miami Beach, FL33139
The Raleigh 外観
Hotel Victorと同じ設計者。こちらは、インテリアの保存状態がたいへん良いそうです。ロビーの家具は新しそうですが、柱、床、案内板などに往時の雰囲気を見てとれます。なお華やかな形のプールも有名です。今年亡くなった元水泳選手のハリウッド女優、エスター・ウィリアムズの映画の撮影に使われたそうです。
The Raleighロビー。家具は現代的ですが、テラゾの床、柱の筋彫りなどがアール・デコ
The Raleighロビー。電話(なぜか黒電話)とトイレの案内板がアール・デコ

Colony Theatre
設計者不明(1935年)
1040 Lincoln Road, Miami Beach, FL33139
Colony Theatre外観
元はパラマウント社の映画館、現在は中規模のホール。近年の改装でファサード、エントランス、ロビーはオリジナルに近い形に戻したとのことなので、いま見られる内装は復元なのかもしれません。旧チケットブースの装飾は、ほかの地域の古い劇場建築でも似たものが見られるので、当時流行したスタイルなのだと思います。
Colony Theatre旧チケットブース
Colony Theatreエントランス

U.S.Post Office
Howard L. Cheney (1937年)
1300 Washington Avenue, Miami Beach, FL33139
U.S. Post Office外観
大恐慌時代、ニュー・ディール政策の公共事業の一環で建てられた郵便局。アール・デコと地中海リバイバル様式が混ざっているように見えます。円筒形部分の内部はホールのような空間で、壁面にはスペイン人と先住民の戦いを描いた壁画と私書箱、天井に太陽を思わせる照明、床に噴水。
U.S. Post Office内部
U.S. Post Office 照明
U.S. Post Office私書箱
U.S. Post Office壁面装飾

Jerry's Famous Deli(旧Hoffman's Cafeteria)
Henry Hohauser (1940年)
1450 Collins Avenue, Miami Beach, FL33139
Jerry's Famous Deli外観
船をモチーフにしたこの建物は、カフェテリア、引退したポーランド系移民の社交場、ゲイフレンドリーなナイトクラブ、などの変遷を経て、現在は24時間営業のカフェテリアです。ユダヤ系高級スーパーEpicureと同じ会社が経営しており、メニューにはユダヤ料理が豊富。どこまでがオリジナルか分かりませんが、広い内部空間、赤いソファや壁のモザイク装飾、天井のファンなどから、昔の雰囲気を感じられる空間です。
Jerry's Famous Deli内部
Jerry's Famous Deli壁面のモザイク装飾

Banana Republic (旧Chase Federal Bank)
August Geiger (1937年)
1100 Lincoln Road, Miami Beach, FL33139
Banana Republic外観
Banana Republic入口
もとは銀行というだけあって、ホテルとは異なり、重厚なたたずまいです。内部には大理石と金属の装飾が修復されて残っています。現在はアパレルのバナナ・リパブリック。銀行時代に接客窓口だったカウンターがレジカウンターとして使用されています。

Art Center South Florida 
設計者、竣工年不明
800 Lincoln Road, Miami Beach, FL33139
Art Center South Florida 内部。大幅に改装されている
アーティスト支援をミッションとする団体が運営しているアトリエ兼ギャラリースペース。アーティスト・イン・レジデンスのプログラムなどで多くのアーティストが作業場と展示場を兼ねたブースを持っています。同団体が1980年代に入居した際には、打ち捨てられたような状態だったそうですが、おそらくアール・デコ時代の建築で、階段の手すりにその名残が見られました。
South Florida Art Center階段手すり
South Florida Art Center階段手すり
ここにあげたほかにも、おそらく多くのアール・デコ様式のインテリアがマイアミ・ビーチに残っているものと思います。特にホテルについては、改装されている所も多いようですが、まだまだ見所がたくさんあるのではないか?と思います。

関連エントリー:
「アール・デコのレリーフ」(2013年5月13日)
「アール・デコ建築」(2013年4月23日)

参考リンク:
アールデコ・ウォーキング・ツアー (Art Deco Walking Tour)
20ドルと高めですが、ガイドをしてくれる人は無償ボランティアで、参加費は保存活動に充てられます。

参考文献:
「Miami Architecture An AIA Guide Featuring Downtown, the Beaches, and Coconut Grove」
(Shulman / Robinson / Donnelly, University Press of Florida, 2010)

「図説 アール・デコ建築 グローバル・モダンの力と誇り」
(吉田鋼市、河出書房新社、2010年)



「マイアミの休日ーMIAMI, KEY WEST & CARTAGENA」
(バリオス陽子、発行アップオン、発売主婦の友社、2011年) 

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