地中海リバイバル様式の装飾 (Colonnade Building) |
マイアミでは、地中海リバイバル様式(Mediterranean revival style)というスタイルの建築が多く見られます。1920年代にカリフォルニアとフロリダで流行し、バロック調の漆喰装飾、アーチ型の開口部などが特徴です。
スペインなど地中海沿岸の建築からインスパイアされたデザインということですが、私の感覚では、これは地中海というよりラテンアメリカのコロニアル様式なのでは?と思えて仕方ありません。まあそれも源流はスペインですけれども。またイタリアのヴェネチアにデザインのインスピレーションを得ている部分も多いようです。京都・鴨川沿いの中華料理店「東華菜館」(W.M.ヴォーリズ、1926年)とよく似たデザインです。
スペインなど地中海沿岸の建築からインスパイアされたデザインということですが、私の感覚では、これは地中海というよりラテンアメリカのコロニアル様式なのでは?と思えて仕方ありません。まあそれも源流はスペインですけれども。またイタリアのヴェネチアにデザインのインスピレーションを得ている部分も多いようです。京都・鴨川沿いの中華料理店「東華菜館」(W.M.ヴォーリズ、1926年)とよく似たデザインです。
参考:北京料理 東華菜館
ダウンタウンのUS1(国道1号線)沿いにそびえるフリーダム・タワー(Freedom Tower)はこの様式。スペイン・セビージャ市の世界遺産、ヒラルダの塔がモデルです。元々は新聞社の社屋で、1960年代にキューバからの亡命者の受け入れ手続きをする場所として使われたため、自由の塔という呼び名になりました。塔のなかほどにアメリカとキューバの旗が翻っています。現在はマイアミ・デード・カレッジ(Miami Dade College)が運営する美術館が入っています。(2012年11月に本の装丁の企画展を見ましたが、無料にも関わらずすばらしいディスプレイでした。)
Freedom Tower |
Freedom Tower入口の装飾 |
Freedom Tower (旧Miami News and Metropolis Building)
所在地:600 Biscayne Boulevard
設計:Schultze & Weaver
竣工:1924年
MDC Museum of Art + Design
https://www.facebook.com/MDCMOAD
参考:ヒラルダの塔画像(ウィキペディア)
地中海リバイバル様式建築が集中しているのが、ダウンタウンの南西方面、やや内陸のコーラル・ゲーブルズ市 (City of Coral Gables)。不動産ディベロッパーのジョージ・メリック氏(George E. Merrick)が1920年代に開発した住宅地が市の始まり。すべてはこの人から始まった。ショッピング・ストリートのミラクル・マイル (Miracle Mile。奇跡の1マイル。なんという強気な名前)、領事館、高級ホテル、レベルの高いレストラン等があり落ち着いた雰囲気の富裕な街です。同市にはメリック氏が設立したマイアミ大学(University of Miami) があり、そのためか、書店や美術館もあり文化的です。
Miracle Mile。ウェディング用品店が多い。 |
Miracle Mile近くの小さな書店も地中海リバイバル様式 |
メリック氏はコーラル・ゲーブルズ建設にあたってデザインに地中海リバイバル様式を取り入れました。「地中海リバイバル様式」の名称は開発時期にデザイナーが付けたそうです。現在でも使用されている市庁舎( Coral Gables City Hall)は1928年竣工の同様式の建築です。映画「Pain & Gain」ではバハマの銀行の建物、という設定で使用されていました。
Coral Gables City Hall |
Coral Gables City Hall
所在地:405 Biltmore Way, Coral Gables, FL 33134
設計:Phineas Paist & Harold Stewart
竣工:1928年
コーラル・ゲーブルズの住宅街は東京でいえば田園調布という感じ。実際、メリック氏は田園都市運動の影響を受けていたようです(City of Coral Gablesのサイトより)。通りの名はスペインやイタリアの地名からとられ、「アラゴン・アベニュー (Aragon Avenue)」「パレルモ・アベニュー (Palermo Avenue)」といった具合。同市のコーラル・ゲーブルズ美術館(The Coral Gables Museum)の展示によれば、マングローブを切り開いて住宅街を造成したころは何もない広大な更地で、現在の様子との違いに驚きます。
開発したての頃のコーラル・ゲーブルズ (The Coral Gables Museum展示より) |
Biltmore Hotel付近の住宅街 |
メリック氏は街に豪華な地中海リバイバル様式のホテルも建設しました。「ビルトモア・ホテル(Biltmore Hotel)」といい、ダウンタウンのFreedom Towerと同じ設計事務所、こちらのモデルもやはりヒラルダの塔。ちなみにこの設計事務所は1929年にニューヨークのアールデコ調ホテル「ウォルドルフ・アストリア」を手掛けていますが、作風がまったく違います。戦前のビルトモア・ホテルにはハリウッドスターなどが宿泊し、庭にはヴェネチアを模した運河を設けてゴンドラ遊びが出来たそうです。庭はおそらく現在ゴルフ・コースになっているところだと思います。
Biltmore Hotel。手前の芝はゴルフコース |
Biltmore Hotelロビー |
The Biltmore Hotel in Miami
所在地:1200 Anastasia Avenue, Coral Gables, FL 33134
設計:Schultze & Weaver
竣工:1926年
メリック氏はBiltmore Hotelとショッピング・ストリートMiracle Mileの中間あたりに、地中海ふうのランドスケープのカジノを建設しました。現在では公営プール「ヴェネチアン・プール (Venetian Pool)」になっており、入場料を払えば誰でも利用できるとのことです(未見)。
Venetian Pool
所在地:2701 de Soto Boulevard, Coral Gables, FL 33134
設計:不明
竣工:1924年
マイアミでは日本の都市に比べ書店がとても少ないのですが、コーラル・ゲーブルズには地元のセンスの良い書店Books & Books、大型チェーン書店Barnes & Nobleや個人経営の書店があり、近年はコーラル・ゲーブルズ美術館(The Coral Gables Museum)も開館し、文化的です。学校のレベルも高いとのことです。Books & Booksコーラル・ゲーブルズ本店は規模が大きく、カフェがあり、パティオ(パティオは地中海的な要素ですね)でのライブ演奏や作家を招いての朗読会などリアル書店ならではのイベントを実践しています。Books & Books, The Coral Gables Museum の建物も地中海リバイバル様式に含まれると思います。
Books & Books コーラル・ゲーブルズ本店 |
Books & Books 店内 |
Books & Books パティオ |
Books & Books Coral Gables
所在地:265 Aragon Avenue, Coral Gables, FL 33134
設計:不明
竣工:1927年
The Coral Gables Museum |
The Coral Gables Museum |
The Coral Gables Museum (旧警察署)
所在地:285 Aragon Avenue, Coral Gables, FL 33134
設計:不明
竣工:1939年
コーラル・ゲーブルズでは新しいビルを建てる際に、こうした古い地中海リバイバル様式の景観の配慮している様子です。規制があるのかもしれません。Miracle Mile沿いに、列柱が特徴の「コロネード・ビル (Colonnade Building、元はメリック氏の販売拠点だったとか)」がありますが、現在はウェスティン・ホテルの一部になっており、背後に大きな新館があります。違和感があるにはありますが、唐突な感じはしません。
Colonnade Building |
Colonnade Building と背後のウェスティン・ホテル新館 |
The Westin Colonnade Coral Gables
所在地:180 Aragon Avenue, Coral Gables, FL 33134
設計:不明
竣工:1926年
前出のBooks & Booksの向かいにある立体駐車場も、通りからファサードが見えるためか、地中海リバイバル(の、現代のリバイバル)様式です。またコーラル・ゲーブルズ最寄りの鉄道駅、DouglasRoad駅ちかくにヴィレッジ・オブ・メリック・パーク(Village of Merrick Park)という高級めのショッピングモールがあり、こちらはバロック的ではないものの、やはり地中海ふうを意識したデザインです。モールから見える赤瓦や建築群はちょっとイタリアの景色のようにも見えます。
Books & Books 向かいの立体駐車場 |
Village of Merrick Park
コーラル・ゲーブルズの街はまるでテーマパークの先駆けのようですね。ひとりの人間の発想からひとつの街を作ってしまうのがすごい。未見ですがメリック氏が開発した住宅街にはテーマパークさながら中国風、フロリダ開拓時代風、モロッコ風、南アのオランダ人植民地風など、外国風住宅街「ヴィレッジ(village)」も計画され、いくつかの住宅は実際に建てられて現在も残っているとのことです。悲しいかな開発者のメリック氏自身は、1926年のハリケーンとそれに続く大恐慌で財産を失い、晩年は郵便局員となって54歳でひっそりと亡くなったそうです。街はいまでも高いステータスを保っているというのに。
Villageについて(コーラル・ゲーブルズ市の公式サイトより)
参考リンク:
コーラル・ゲーブルズ市公式サイト City of Coral Gables
※Village of Merrick ParkにあるデパートNeiman Marcusについて。
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