2014年2月27日木曜日

マイアミにBanksyの作品はない。ないけれど・・・


過日、覆面ストリートアーティスト「バンクシー (Banksy)」の3作品がマイアミでオークションにかけられ、うち「Kissing Coppers」が57万5000ドルで落札されました。いずれの作品も、2012年と2013年のアートフェア「Art Miami」で展示されていたものです。

覆面アーティストBanksyとは
57万5000ドルで落札された「Kissing Cops」。2012年ArtMiami展示時の写真。もとはイギリスの壁面に描かれていたもの。
メッセージ性が強い作品を世界各地に残すBanksy。彼がなぜ覆面アーティストなのかというと、ゲリラ的に公共スペースやビルの壁に作品を残すため、自身の素性がばれるとまずいからです。こうした作品を「自作だ」と公言することも基本的にはありません。
「壁に書かれた作品を盗むやつらもいるけど、彼らには驚かされるよ。本当に僕が描いた作品だということを保障する証明書が欲しいって言うんだ。それってつまり、僕が他人の財産を損壊したことを認める供述書のことだよね!」---映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」公式サイト、Banksyインタビューより

今回オークションにかけられた作品は、もともとイングランドとニューヨークの壁面および車のボディに残されたものです。ニューヨークの画商がそれらを家主や車のオーナーから買い取り、競りに出したようです。むろんBanksyは自作だと言っていませんし、彼には一銭も入ってこないでしょう。(昨年「商業的な成功はストリートアーティストの敗北」みたいなことを言っていたので、それは別に構わないんだと思いますが。)
オークションに出品された「Bandaged Heart Balloon」。不落札。2013年ArtMiami展示時の写真。

オークションに関する報道はこちら:
覆面芸術家バンクシーの壁画に5800万円、マイアミでオークション(ロイター、2014年2月19日)


マイアミとBanksy

ではアートフェアで作品が展示され、オークションが開催されたマイアミは、Banksyとどう関係があるのでしょうか?…筆者の知る限り、なにも関係ありません。どこかの壁面に残された作品も無し。2013年秋にオープンしたホテル「Riviera South Beach」は、内装の一部がBanksyのデザインだとの触れ込みでしたが、あっという間に本物ではないことが判明するという脱力する事件はありました。ストリートアートにインスパイアされたBanksyならぬ「バンスキー(Bansky)」というシリーズのタイルを使用していたとのこと。
オークションに出品された「Crazy Horse Car Door」。不落札。2013年ArtMiami展示時の写真。
Banksy Agent: Riviera South Beach Hotel Tiles are “Fake and Not by the Artist Banksy”
(Miami New Times, 2013年10月25日)

そんなマイアミでBanksy作品の話題が持ち上がるのは、街でストリート・アートが盛んであり、その道の大スターにあやかりたいのかもしれません。Banksy作品は見当たらないものの、Banksyに近しい有名アーティストらが活躍している模様で、彼らの作品を見ることができます。


ドキュメンタリー映画「Exit Through the Gift Shop」

先に引用した映画「Exit Through the Gift Shop」はBanksy自身が監督したドキュメンタリーで、親交があるとおぼしきアーティストたちが登場します。ここでちょっと「Exit Through the Gift Shop」の概要とあらすじを。

「ストリート・アーティストのバンクシーが初監督を務め、第83回アカデミー賞ドキュメンタリー長編部門にノミネートされた話題作。素顔を誰も知らない覆面グラフィティ・アーティスト、バンクシーが、ユーモアたっぷりにアート業界の暗部を映し出す。ナレーションは『パイレーツ・ロック』のリス・リス・アイファンス。スペースインベーダーのモチーフを世界中に張り巡らせたスペース・インベーダーら、多数のアーティストも登場し、見逃せない作品となっている。
ストーリー:ストリート・アートについてのドキュメンタリーを制作し始めたロサンゼルス在住のフランス人映像作家ティエリー・グエッタ。ティエリーは覆面アーティスト、バンクシーの存在にたどり着き、取材を始めるが、ティエリーに映像の才能がないことに気付いたバンクシーは、逆にティエリーのドキュメンタリーを自分が監督し始める。」---シネマトゥデイより引用 http://www.cinematoday.jp/movie/T0009903

予告編(diceuplinkのYouTubeチャンネルより)



皮肉なユーモア溢れる傑作ドキュメンタリーなのでぜひ直接見ていただきたいところですが、ネタバレしない程度に補足。
趣味でなんでもかんでもカメラに収めていたティエリー(あらすじに映像作家とありますが、本業はロサンゼルスの古着屋)は、フランスのストリート・アーティスト「Space Invader」の従兄弟であり、やがてSheperd Faireyら著名ストリートアーティスト達のゲリラ制作を撮影するようになります(結果的に貴重な記録になっています)。アーティストらの活動に協力して信頼され、ついにFaireyの紹介で憧れのBanksyとお近づきに。そして映画後半からはMr Brainwash (ミスター洗脳)なる、自称アーティストが登場し、ストリート・アーティストたちの間に波紋を呼びます。


映画に登場したアーティストたちの作品が見られる場所

マイアミのウィンウッド地区(Wynwood) にはグラフィティが数えきれないほどあり、映画に登場するアーティスト達の大作もここにあります。ギャラリーも多く、マイアミのアート地区として知られています。もともとあった製造業が衰退し、自発的に集まって来たアーティストらが倉庫の壁面などに絵を描いたのがはじまりのよう。ただし現在では、ゲリラ的に描いているものもあるでしょうが、公園のように綺麗に整備されている「Wynwood Walls」で見られる作品のように、正式にコミッションされた作品も多いとみられます。

では映画に登場するアーティスト達の作品を見られる場所をご紹介します。

Sheperd Fairey作品:
アンドレ・ザ・ジャイアントの顔に「OBEY」のロゴを組み合わせたアイコンで知られる Sheperd Faireyは、オバマ大統領の肖像作品がTIME誌の表紙を飾ったこともあり、Banksyと同じくらい有名かもしれません。映画ではティエリーがロサンゼルスにいるFaireyを取材しますが、事務系コンビニKinko'sのコピー機を使って制作をしていて驚きます。「Wynwood Walls」には、ダライ・ラマや、Wynwoodの発展を促した不動産ディベロッパー、故トニー・ゴールドマン氏を描いたFaireyの大作があります。ときどき新作に描き換えるようです。
Sheperd Fairey作品。中央はゴールドマン氏の肖像。


Ron English作品:
映画ではティエリーに「あなたは絵が描けるんですか?」と尋ねられ、(戸惑いつつ?)「(いま目の前にある)これはペインティングだよ」と答える Ron English。彼の作品もやはりWynwood Wallsにあり、2012年のアートフェア・シーズンには現地で制作をしていました。
Ron English作品

Swoon作品:
フロリダ育ちの女性アーティストSwoon。映画では夜間にストリートで制作するSwoonが登場します。彼女の作品は「Wynwood Walls」近くのビル壁面にあり、大作。ディベロッパーのトニー・ゴールドマン氏が依頼したものだそうです。ゴールドマン氏はニューヨークのソーホー地区を再開発した人で、マイアミのWynwood地区の再開発も手掛け、「Wynwood Walls」を作りました。Wynwood向けのアーティスト選定にあたって、なんと大物キュレーター、ジェフリー・ダイチ氏を雇ったそうです。Wynwoodの仕事のあとだとは思いますが、ダイチ氏はつい最近までロサンゼルス現代美術館の館長をやっていました。
Swoon作品。向かいに自動車修理工場があり、ストリートの雰囲気が残っている。

Space Invader作品:
ティエリーの従兄弟 、フランスの覆面アーティストSpace Invader。タイルで出来たインベーダーはマイアミ各地に潜んでいます。すでに消されてしまったものもありますが、街をよく観察するとあちこちで目にすることができます。マイアミのインベーダーを集めた写真集も出版されています。
Space Invader作品。ダウンタウンのメトロムーバーの高架下で発見。

Mr Brainwash作品:
芸術家としては微妙なポジションのMr Brainwashの作品も、12月のアートフェア・シーズンになると、派手に展示されます(彼の作品を通年で見られる場所は、無いかもしれません)。2013年のシーズンにはマイアミ・ビーチのビルに大きなディスプレイ。また同年の「Art Miami」では、Banksy作品のすぐ横に彼の作品があり、映画「Exit Through the Gift Shop」のストーリーからすると皮肉な展開に…。Banksyは非売品、Mr Brainwashはしっかり値段がついていました。
2013年、マイアミ・ビーチのビルに掲げられたMr Brainwashの「Batman Papi」

上で紹介したWynwood地区では、毎月第2土曜日はギャラリーが遅くまで開いており、フードトラック(屋台)が出て夜はお祭りのように大賑わいです。この日はマイアミ市が地区内とダウンタウンで無料トロリーを走らせています(が、トロリーの拠点までは車で行くしかないと思われ。周辺はけっこう荒んでいます)。また有料のガイドツアー「Art Walk」が開催され、グラフィティ作品やアートスポットの解説をしてくれるので、マイアミのBanksy周辺アートについて知る良いナビゲーションになります。

Wynwood Art & Wynwood Art Walk Community(ガイドツアーの申し込みはこちらから)

第2土曜日トロリーのルート

Wynwood Walls
2528 NW 2nd Avenue, Miami, FL33132
第2土曜日Art Walkの様子。この日の参加者は少なかったけれど、普段は20人くらいの規模になるとか。


関連エントリー:

関連映画:
「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」(2010年、監督:バンクシー)

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