海面上昇といえば南太平洋のツバルの問題が知られていますが、マイアミにとっても他人事ではありません。2013年6月、音楽誌ローリング・ストーン政治欄にマイアミの危機に関する記事が掲載されました(ウェブ版。印刷版は同年7月)。
Why the City of Miami is Doomed to Drown (Rolling Stones, 2013年6月20日)
眺望良し、しかし海面スレスレ |
マイアミ周辺の平均的な海抜はわずか6フィート(1.8メートル。wikiより)。海沿いのリゾート地ですから、富裕層の住宅、別荘、金融街のオフィスビルは水辺の眺めが良い場所にあります。豪華なお屋敷の庭には桟橋があり、ボートが繋いであります。波は穏やかですが、見るからに海面スレスレ。いまでもスレスレなのに、ローリング・ストーン誌によれば、今世紀末には6フィートを越える海面上昇の可能性があるとのこと。つまりこの予想が当たれば、数十年後にマイアミは水没。
下記リンクは海面上昇がアメリカの都市に及ぼす影響を示したインタラクティブ・マップです。海面5フィート(1.5メートル)上昇でマイアミ・ビーチ市ほぼ壊滅。12フィート(3.6メートル)上昇でマイアミ市の7割以上が水没。
What Could Disappear (New York Times, 2012年11月24日)
セレブリティの別荘が建ち並ぶ人工の島「スター・アイランド」も海面すれすれ |
2012年10月、ニューヨーク州のマンハッタン南部やブルックリン、ニュージャージー州アトランティック・シティなどに大きな被害をもたらしたハリケーン・サンディは海面上昇の危機を疑似体験させてくれました(というとちょっと大げさですが)。この時、ハリケーンはマイアミに上陸はしなかったものの、接近するハリケーン+高潮+満月のコンボで雨水の排水溝を海水が逆流し、マイアミ・ビーチ市の一部は水浸しになりました。
水浸しのマイアミ・ビーチ市(2012年10月撮影) |
行政が現状に手をこまねいているのかというと、マイアミ・デード郡やマイアミ・ビーチ市といった自治体単位では海面上昇の危機を肌身に感じているため、それなりに一生懸命やっているようです。マイアミ・ヘラルド紙によれば、2012年、マイアミ・ビーチ市は老朽化した排水装置の整備のため2億600万ドル(約206億円)!もの予算を通したそうです。そういえばサンディとは別のハリケーンが接近したとき、マイアミ・ビーチの古い配水管が豪雨に耐えきれなかったのか壊れてしまい、エリア一帯が断水したこともありました。
Deep Trouble: How sea-rise could havoc in South Florida (Miami Herald, 2013年3月10日)
しかし、連邦もフロリダ州も海面上昇リスクに無関心とのこと。莫大なコストがかかるせいでしょうか。ちなみにフロリダ州議会では共和党が強いので、議員や知事は気候変動の考えそのものを嫌っているらしいことがローリング・ストーン誌の記事から窺えます。共和党は富裕層の味方なのに、南フロリダ一帯の富豪たちの財産が海の藻屑となってもいいんでしょうか…不思議です。
水浸しのマイアミ・ビーチ市(2012年10月撮影) |
同誌によれば、災害による影響のアナリスト、チャック・ワトソン氏が南フロリダ自然災害対応計画(州と連邦緊急事態管理庁が資金を出している)の会合に出席した際、「私が海面上昇について言及したら、委員の一人から(聖書の)創世記について15分間レクチャーされた。『神はまず洪水で世界を破壊した。そして二度と同じことはしないと約束した。海面上昇の恐怖を煽るあなたたちは、帰って聖書を読みなさい』と言われた」のだそうです。災害対策の会合なのにすごい切り返し。キリスト教原理主義というやつでしょうか。
ローリング・ストーン誌によれば、低地を開拓したオランダに学べばいい、という意見が多いそうです。オランダ領事館も同国の技術のアピールに余念がないとのこと。が、マイアミの地盤が多孔質の石灰岩であること、市街の西に広がる湿原エバーグレーズ国立公園 (Everglades National Park)からも水が押し寄せてくるであろうことなど、オランダとは条件が違いすぎるといいます。
エバーグレーズの湿地帯 |
さらに同誌には、海面が上昇すると前述の石灰岩に海水が侵入し、飲料水の確保に必要な脱塩設備をこれまた莫大なお金を使って増設しなければならない。近くのターキー・ポイント原子力発電所に具体的な対策についてインタビューしたら担当者は言葉を濁した。海辺の金融街ブリッケル地区では高級コンドミニアム建設が進んでいるが、投資家たちは海面上昇リスクに向き合ってない。などの問題が書かれていました。
ブリッケルのウォーターフロント |
そもそもマイアミは、入植者が湿原を干拓し、マングローブを引っこ抜いて作った非常に人工的な都市です。観光客に人気の白砂のビーチも人工(元はマングローブ。砂が波に持って行かれるので、よそから砂を持って来て整備しています)。豪邸が建ち並ぶ島々も人工。一部の自然保護区をのぞいて、ランドスケープすら人工なのです。ディニーランドのようなものです。将来、同じ場所で現在のような都市生活を維持したい場合、街の建設時と同じように、人間の技術を駆使して力技で乗り切るしかないのかも?コストが高すぎるから街を棄てる、という選択肢もあるかもしれません。海面上昇を食い止めることができれば、いちばん良いんですけどね。
定期的に整備が必要なビーチ |
参考リンク:
エバーグレーズ国立公園
Everglades National Park
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