2013年6月8日土曜日

水族館のフラー・ドーム

「Miami Architecture」という本の建築家別索引をパラパラ眺めていたら、マイアミの水族館「マイアミ・シークエリアム (Miami Seaquarium)」にリチャード・バックミンスター・フラー(Richard Buckminster Fuller)設計のドームが残っているということが分かりました。水族館と併せてご紹介。



大昔から未来的デザイン&コンセプト
フラー(1895〜1983)は建築家というよりは発明家、思想家、ヴィジョネアという感じの人だったようです(付け焼き刃な知識でして、著作も多いようですが読んだことがなく、理解が浅くてスミマセン)。

1930年代、つまりマイアミでは「豪華客船を模したデザインホテルを作ってお客を惹き付けよう」なんてホテル経営者が考えていたアール・デコ流行中の時代。この頃すでに、軽く、運搬が楽な建材でできた同じ形のユニットを組み合わせて素早く建てられる経済的な家を作りたいという、世間とぜんぜん違うアプローチの発想をフラーは持っており、その後フォードや航空機メーカーと組んで実物を作ったそうです。写真を見ると、薄い金属製のUFOのような家で、必要な建材は人間くらいのサイズの円筒にまるまる収まって運びやすくしてしまうという、SFの世界を垣間みるようなアイテム。

フラーとノーマン・フォスター
フラーは上記の家と同じようにシンプルな部材と軽い素材で作れるドームを考案しました。発明の思想背景には常に自然や科学の原理があったようです。

英国の建築家ノーマン・フォスター(1935〜)はフラーと親交があり、フォスターを追ったドキュメンタリー映画「How Much Does Your Building Weigh, Mr Foster?」(2010年)には、フラーが「海の波が作る泡はドームだ」と語る本人の声が収録されています。(ちなみに映画のタイトルは、フォスターがフラーに「フォスターくん、きみの設計したビルの重さはどのくらいかね?」と尋ねられたエピソードから。若きフォスターは「そんなこと考えたこともなかった」と驚き、実際に重量を計算してみて、以後、フラー同様に軽い建材に熱心に取り組むことになったとのことです。)

「How much does your building weigh, Mr Foster? 」予告
(dogwoof Youtubeチャンネルより)

マイアミでは2011年のアートフェア期間の際に、フラー作品の復元品も含むフォスターとフラーの展覧会があったそうです(未見)。それもあってフォスター卿が講演会に来ていたのかー、と今さら思い至りました。同展覧会ではデンマークの現代美術家オラファー・エリアソンの講演もあったそうで…見逃したことが悔やまれます。

Fuller & Foster at Design Miami (The Buckminster Fuller Institute)

フォスターが関わるマイアミ・ビーチのコンドミニアムについてこちらにちょこっと書いています:


Miami Seaquarium のフラー・ドーム
さてマイアミ水族館のフラー・ドームは、1960年建造(建築家Charles McKirahanと共同作業)。
正面。ドーム前にアシカのプールあり

サイドビュー。ベースが波打った形状。芝生にイグアナがいっぱいいました。

アシカ・ショーのパビリオン「ゴールデン・ドーム Golden Dome」として使われており、観客席側は金属製の屋根がかかり、ステージ側はスケルトンの半オープンスペース。
観客席
ステージ

補修をどの程度しているのか不明ですが、屋根部分はきれいな状態で残っていると思いました。これまで数々のハリケーン襲来にも耐えたとのこと。出来た当初は未来風の演出を試みたのか、園内にモノレールが走っており、ドームと接続していたそうです(現在ではモノレールは廃止)。





ドームに続く通路。モノレールが上を走っていたと思われる

水族館自体は1954年にオープンしたそうで、以後アップグレードしていなさそうなレトロ感、昭和感。それでいて入場料は40ドルと高いのですが、おそらくショーを目玉にしているためと思われます。上記フラー・ドームのアシカショーのほか、イルカショー、シャチのショーなどあります。シャチはすごい迫力。
レトロです
シャチのショー
マナティ。都心部のウォーターフロントで泳いでいることも

園内はさして広くなく、昔のアメリカ人は小柄だったのかなと思わせるコンパクトぶりです。ベビーカーを置く場所も確保されていますので小さなお子さんのいるファミリーに向いているのではないでしょうか。各種割引やパスもあるようです。正規の入場料は高すぎる気がするので、私はクレジットカードのポイントを1人分の入場料で2人入場可、という特典に引き換えて入場しました。
食べ物が豊富なので鳥たちが勝手に生息
水槽の窓の小ささが時代を感じさせます


フラーとイサム・ノグチ
慶應義塾大学アート・センターのサイトによれば、フラーは彫刻家のイサム・ノグチ(1904〜1988)とも親交があったそうです。ノグチは1980年代にマイアミの海沿いの公園ベイフロント・パーク(Bayfront Park)の再開発に携わりました。同公園にはノグチ作の、スペースシャトル「チャレンジャー」事故で亡くなったクルーを追悼するモニュメント(1988年?)があります。このモニュメントは三角形のフレームの組み合わせで出来ており、フラーの影響があるのではないかと思われます。
イサム・ノグチ作モニュメント

<わが最良の友>たる芸術家ーーバックミンスター・フラー・とイサム・ノグチ
(慶應義塾大学アート・センター)


各地のフラー・ドーム
ついでですがマイアミ以外の各地のフラー・ドームについて(自分調べ)。フラー・ドームは1967年開催、カナダのモントリオール万博アメリカ館用に建造したものが現在でも残っており、よく知られているようです(火災にあい、パネルは焼失)。写真を見ると、ゴルフボールような球体に近いドーム。Miami Seaquariumのドームようにモノレールが出入りしており、当時の人は「まさにこれが未来の世界!」と感じたのではないでしょうか。

EXPO 67 NOW & THEN (モントリオール観光局)
http://www.tourisme-montreal.org/blog/expo-67-then-and-now/
モントリオール万博紹介ビデオ(CBC Radio YouTubeチャンネルより)
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=8gRTF0jhsq8



ドキュメンタリー映画「Charles & Ray Eames: The Architect and the Painter(邦題「ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ」)によれば、これより早く1959年モスクワで開催の「American Modernism the National Exhibition」パビリオンがモントリオールと同じタイプのゴルフボール型だったようです(内部の映像などをイームズが担当)。

「ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ」予告
(cinematoday YouTubeチャンネルより)


また、1964年竣工「東京よみうりカントリークラブ」(東京都稲城市のゴルフ場。よみうりランドの隣)のクラブハウスがフラー作のドームで、内部に自然を取り込んだ斬新なものだったといいます。(1987年、老朽化により解体。ドームのパネルが樹脂製で、中が暑く、会員には不評だったそうですが…。)なんで日本のゴルフ場にドーム状のクラブハウス?かというと、読売新聞社主、正力松太郎が当時すでに後楽園球場をドーム化する構想を持っていたそうで、まずはゴルフのクラブハウスでドーム建築を試してみたため。しかしドーム球場のほうは建築許可が降りず、実現したのは正力もフラーも亡くなったあとの1988年でした。

「クラブの歴史」(東京よみうりカントリークラブ)
上記エピソードの出典:「建築探偵 雨天決行」(藤森照信 著、朝日新聞社、1997年)
「幻の後楽園球場の屋根」の項


なおマイアミの北にあるオーランド(Orlando)のディズニーワールド内にフラー・ドームのようなものがあります。モントリオールのものに似たゴルフボール状の「Spaceship Earth」というアトラクションです。Spaceship Earth(宇宙船地球号)という言葉もフラーの発明だそうですが、同アトラクションにフラー自身は関わっていないようです。1980年代に出来たアトラクションなので、フラーが亡くなった後のものなのかもしれません。エプコット(Epcot)という万博を再現したようなパーク内にあります。

Spaceship Earth



参考リンク:
Miami Seaquarium
http://miamiseaquarium.com
住所:4400 Rickenbacker Causeway  Key Biscayne, FL 33149
マイアミから有料の橋リッケンバッカー・コーズウェイ(2013年6月現在、普通車1.75ドル。島に入るときのみ)を渡ったキー・ビスケーン(Key Biscayne)地区の島(Virginia Key)にあります。Key Biscayneは自然保護地区や「ソニー・オープン・テニス」会場などもある風光明媚な場所です。


大きな地図で見る

Epcot (ディズニーワールド)

The Buckminster Fuller Institute

How Much Does Your Building Weigh, Mr Foster?」 公式サイト

「ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ」公式サイト(日本語)


参考文献:

「Miami Architecture An AIA Guide Featuring Downtown, the Beaches, and Coconut Grove」
(Shulman / Robinson / Donnelly, University Press of Florida, 2010)

「International Style Modernist Architecture from 1925 to 1965」
(Hasan-Uddin Khan, Taschen, 1998)



「建築探偵 雨天決行」(藤森照信 著、朝日新聞社、1997年)
「幻の後楽園球場の屋根」の項


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