2018年夏、神奈川県藤沢市で『「Scholar」-ガブリエル・デルポンテと湘南ゆかりのアーティストたち-』展が開催されました。デルポンテ氏はマイアミ・ビーチを拠点とするアーティストです。
『「Scholar」-ガブリエル・デルポンテと湘南ゆかりのアーティストたち-』展（2018年7月7日〜8月26日、藤沢市アートスペース）は姉妹友好都市文化交流事業。藤沢市とマイアミ・ビーチ市は姉妹都市なのです。実は藤沢の海岸は東洋のマイアミ・ビーチなのだとか。展覧会の時期はちょうど「江ノ島マイアミビーチショー」が開かれていました。ヒーローショーやフラダンス、ビーチバレー大会などマイアミビーチとの関係性が不明なイベントが目白押しだったようですが、ともかくマイアミビーチという名前は藤沢に浸透しているようでした（ちなみにマイアミ市の姉妹都市は鹿児島市）。
デルポンテ氏はマイアミ・ビーチのリンカーン・ロードにあるArt Center /South Floridaを拠点にしていたアルゼンチン出身のアーティスト。筆者は2014年春頃マイアミの地元新聞の記事で、デルポンテ氏が「Bridge Me Japan」というプロジェクトを立ち上げ、自転車で日本各地を巡る旅に出向くことを知りました。プロジェクトは松尾芭蕉の「奥の細道」にインスパイアされ、藤沢市や三重県の自転車ブランド「ミューラー」などがバックアップし、デルポンテ氏は 藤沢市から旅を開始するとのことでした。
そもそもアジアへの関心が薄いマイアミで、日本に関する話題が出るのは珍しいことでしたし、デルポンテ氏のご出身地アルゼンチンは南米の中でも日系人が少ない国。けれどもデルポンテ氏は幼少の頃に近所に日本人がいて親しくなり、日本文化に関心を持ったとのことで、興味を引く記事でした。しかし筆者はその頃米国から日本への引っ越しなどがあり、何かと多忙でその後は「Bridge Me Japan」をこまかくフォロー出来ておりませんでした。
さて2014年にはじまった「Bridge Me Japan」、デルポンテ氏は9月に藤沢市の市役所から自転車の旅に出発。手紙をリレーする「Hikyaku Letter」を中心に作品を制作するとのことでした。筆者はこのプロジェクトは1年くらいの期間で完結したものと思っていたのですが（普通、アーティスト・イン・レジデンスなども半年とか1年ですよね）、なんと2年9ヶ月にわたり、北は北海道から南は沖縄までを旅したのだそうです。
2017年7月に藤沢市役所前に戻ってきたデルポンテ氏。それからさらに1年後に「Scholar」展が開催されたのでした。展覧会は広い一室がデルポンテ氏の展示、周囲の部屋や壁面を使い大崎清夏、河本蓮大朗、フクナガコウジ、水野美加ら湘南ゆかりの各氏の作品が展示されていました。
デルポンテ氏の作品は写真、映像、絵画、焼き物、立体、手紙（のリレー）と多岐にわたり、それぞれに観光地的ではない日本が表されているのかな、と思いました。写真は中高年男性のポートレート風のものが存在感があり、特に地元ともいえる江ノ島の一枚は、昔の写真？と思わせるちょっとレトロなスタイルの男性が登場し印象的でした。
青い立体の中心にあるのは、土偶でしょうか。「Bridge Me Japan」のサイトに掲載されている地図には「Jomon Route」というタイトルがついているので、旅の道中では縄文遺跡にも注目されていたのかもしれません。
いちばん心に迫った作品は「Hikyaku Letter」。これはある人が手紙を書き、その中に読んだ人向けの質問を書いておき（例：あなたの趣味はなんですか？）、読んだ人はそれに応える形で手紙を書き、また次の人へのお題を出す、というもの。これらの手紙はデルポンテ氏が旅で訪れた先で書いてもらったもの。どれも中身が濃いレターばかりで、読んでいて泣きそうになりました。氏は彼ら彼女らの手紙を英訳で読んだのでしょうか。大変な経験をされた方や悩みがある方がいて、その内容もずっしりと響きますが、みなさん文章がとても真摯で上手で美しいのです。もしかして私が街ですれちがう知らない人たちも、外見ではそうとはわからないけれども、実は内面では強い思いを抱いていて、心打つ文章を書くのではないか・・・などと思いました。
この「Hikyaku Letter」プロジェクとは今後も続けていくとのこと。実際、展示会場でもこれらの手紙への感想や応答をその場で便箋に書き、デスクの引き出しにしまってくるという参加型の作品になっていました。この後、マイアミビーチやアルゼンチンにもリレーされていくのでしょうか？続きが気になるところです。
関連リンク：
「Scholar」-ガブリエル・デルポンテと湘南ゆかりのアーティストたち-
Bridge Me Japan
マイアミビーチ市（アメリカ合衆国）の紹介（藤沢市）
0 件のコメント:
コメントを投稿